『天下第一の家』呉乙峰監督 質疑応答

山形映画祭2005レポート
『天下第一の家』
呉乙峰(ウー・イフォン)監督 質疑応答

DDSでは『天下第一の家』をポレポレ東中野にて9月22日(金)17:40より上映いたします。
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『天下第一の家』
英題:The House Masters 原題:天下第一家
台湾/2004/北京語、台湾語/カラー/ビデオ/89分

司会:吉井孝史   通訳:遠藤央子

観客ⅰ  他の作品も拝見しているのですが、この作品は被害者の方々が放っておかれているような雰囲気が出ていて、住民たちが一丸となって訴訟を起こそうとしても官僚たちに阻まれてまったく先に進めないというところがちょっと他と違っていましたね。これだけ見てしまうと非常に悲惨なものに思えてしまうのですが、地震をいろんな側面から見ることができ面白いと思います。

観客ⅱ  先日たまたま台湾に行き、その時が震災の記念日だったのですが、台湾では「前向きに取り組んで行こう」と子供がたくさん出て来て、これまで復興してきましたということが前面に出されていたのですが、今の作品を見たらまだまだなんだなと。そのギャップがすごくあると思うのですが、こういった作品は台湾ではどういうように受け入れられているのですか?

呉乙峰 全景の今回上映するシリーズのうち、私が撮ったのはこの『天下第一の家』と『生命(いのち)』の2本です。このシリーズは全部で7本あり、5人が監督となり製作しました。その内1本はまだ製作中です。また何本かはつい最近編集が終わったばかりです。地震から6年が経ちました。全景が手がけた撮影は終了したのですが、やはり再建は終わっていない。特に精神面物質面において、被災者のみなさんと地震との関係の深さをますます感じるようになりました。

 『生命(いのち)—希望の贈り物』のほうは被災者の遺族のみなさんとの関わりでしたので、製作の間もとても精神的につらいものがありました。それに対してこの作品は生き残った方々の物語です。台湾の被災地の大部分80パーセントは老人が固まって住む農村的社会な地区ですが、それとは別に静かに自分たちの考えを持ち再建に当たろうとする都市型の地区もある。そういう状況をみて『天下第一の家』を製作しました。この作品は都市型地域の人たちの再建の様子と彼らの生活をすこし引いたところから静かに見つめた作品です。

 このシリーズの他の作品については、もっと被災地に寄り添った部分があり、再建ということだけにとどまらず、たとえば政府との軋轢ですとか、住民の生活にもっととけ込み、再建の周辺のことに密着し、社会問題という側面にも踏み込んで撮影したものです。ぜひ、こちらも見ていただければと思っています。台湾で起きた地震の話ですが、今年阪神淡路大震災から10年ということで『生命(いのち)』を神戸でも上映しました。そこでも多くの被災者の方から「とても、感じることがある」という意見をいただきまして、国が違っても天災に対する人の気持ちは変わりがない普遍的なものなんだと思いました。


 この作品は去年『生命(いのち)』やこれから上映する『部落の声』『梅の実の味わい』とともに台湾で上映されました。その時には、こういった静かな作品ですので、『生命(いのち)』ほどの反応はなかったのですが、台湾の社会の問題ですとか、自力で復興する現実など、そういったことに対する多くの議論を呼びました。最近このシリーズを編集していて気づいたことは、台湾の人の特質ですね。こういった苦しい状況でもユーモアを忘れない。こちらにも出てくるおじさんなど、みんなちょっとユーモアがあったり、ちょっととぼけたかんじ。こういうのは台湾人のとてもいいところだと思います。どんな困難にあっても、ユーモアを忘れない明るさというのは大切なことではないでしょうか。


観客ⅲ スタッフの体制はどうだったのですか?

呉乙峰 全景のメンバー全員12人で被災地に入りました。この作品に関しては、カメラマン2人、編集が3人、その後学生さんで手伝ってくれた人もいました。もうちょっと長い視点で考えて、10年後このシリーズを見直した時、全景にとって地震の記録を撮ったことはひじょうに意義あることになるだろうと思っています。われわれの若い世代の人間たちが心血を注いでつくった記録で、私たちの精神をもゆさぶるものと考えています。震災とこの再建を記録し、その現場にいたということは自分たちにとってもとても意味のあることでした。住民の人たちの再建、立ち上がってもう一度やりなおすんだという姿は自分たちにも得ることが多くありました。

司会  皆さんこの後のこと気になりませんか? 

呉乙峰 台湾のこういった問題はひじょうに長引くので、まだ続いています。この問題は解決していません。軍キャンプで所長といわれていたおじいさんはゆかいにお酒を飲んでいて川辺でこの世を去られたそうです。出て来たお年を召した方々はまだ黙々とあの場所に住んでいます。

観客ⅳ 私は山形に住んでいる台湾人です。僕も6年前に地震を経験して、作品を見て昔を思い出しました。しかも台湾語を聞いたのでふるさとに帰ったみたいな。台湾の生活ぶりをかなり細かく生活しているのでいい作品だなと思いました。機会がありましたらまたぜひ台湾の作品を残してください、そうしたら私は故郷に帰らなくてもいい(笑)。

(2005年10月8日 山形市内映画館ミューズ2にて)

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主催◎シネマトリックス
共催◎山形国際ドキュメンタリー映画祭実行委員会、アテネ・フランセ文化センター、映画美学校、ポレポレ東中野
協力◎東京国立近代美術館フィルムセンター、大阪府立女性総合センター(ドーンセンター)、東北芸術工科大学東北文化研究センター

フィルム提供:
アテネ・フランセ文化センター、アリイケシンジゲート+大きい木、岩波映像、映画「戦後在日五○年史」製作委員会、川口肇、共同映画社、シグロ、疾走プロダクション、自由工房、白石洋子、鈴木志郎康、瀬戸口未来、高嶺剛、W-TV OFFICE、陳凱欣、朝鮮総聯映画製作所、全州国際映画祭、テレビマンユニオン、直井里予、日本映画新社、朴壽南、ビデオアートセンター東京、プラネット映画資料図書館、北星、松川八洲雄、松本俊夫、もう一度福祉を考え直す会・磯田充子、ヤェール・パリッシュ、山形ドキュメンタリーフィルムライブラリー