3)インディペンデント映画の背景、そしていま

朱日坤(ジュウ・リークン):中国における新ドキュメンタリーの作り手たちの交流、そしてその場を提供する映画祭の立ち上げという状況におきましては、やはり非常に中国社会が複雑であるということで、様々な交流が広げられていると同時に、誤解というようなこともあるわけです。いわゆる我々のインディペンデント作品というのは主流のマスコミの中で、大きく取り扱われることがあり得なかった作品の数々なのです。それが悪いことだと言うつもりはありませんけれど、やはり私としては具体的な作品の作られる状況とか個別の映画祭の状況を詳しく話すよりも、まず皆さんに私たちの文化的な背景を理解していただいた方が重要だと思います。

先ほどから話題になっているインディペンデント・ドキュメンタリー映画祭、自分が関わっているものや雲南のものがありますが、それぞれが全て、外からの圧力とかに直面していてその時によっては開催も危ぶまれるということになっているわけです。私たちが関心を持っている問題としては、例えば山形と比較してどうかということとは別に、私たち独自の問題として解決しなければいけない問題というのがあるんですね。

それからまた、インディペンデントとして中国で制作していくことなのですが、やはり作っていく段階で、例えば制作現場で殴られたり、怪我をしたり、あるいはカメラを没収されたり、また捕まって拘留されたりということは実際にあるわけです。今自分たちが向き合っている中国独自の問題というものはもちろん政府の抑圧という要素もあります。と同時に私たちが今置かれている商業ベースの環境、その中でどのように制作をしていくか、皆が商業ベースに向かっている潮流の中でどう振舞うことができるかということになります。

私は昨年フランスのカンヌ映画祭へ行ってきたんですけれども、そこにあるロウ・イエという中国のインディペンデント・フィルムメーカーが出品していましたが、そこで中国でインディペンデント作品を、上映することでさえも様々な問題、様々な圧力が加わるということを話していました。私は山形に来てからも中国のメディアでどういう報道がされているかということはインターネット等を通してチェックしていますが、いま韓国では釜山映画祭が行われていますけれど、そこに、例えば同じ中国から行った作品でもいわゆる検閲を通った作品とそうではない作品が同時に出ている場合、検閲を通った作品は中国国内で様々な報道がされているけれど、そうではない作品は全く触れられないという状況があります。

今中国では大変な数の映画が制作されているわけですけれど、その中でインディペンデントの作品に限ってみたら、その数というのは限られているわけです。ただこのインディペンデント作品に対する投資というのは決して無視できない比率を占めていると思います。中国で宣伝色の強い映画を私たちは主旋律映画といっているわけですけれど、ちゃんと検閲を通った映画というのは制作の数百本になるわけです。それに対して中国政府お墨付きの映画祭というのもあり、そこでの賞金は、かなり高額なものです。どれほど高額かといいますと、山形のロバート・フラハティ賞でもらえるお金の8倍から10倍くらいのお金が十数本の作品に一律に配られるわけですね。

もちろん山形ではこの中国のインディペンデント作品というのは多く観ることができるわけですけれども、中国国内ではこのような作品がどういうふうに報道されているかというと、外国に行っているのは中国の汚いところを無理に見せているからそれがうけているのだとか、外国人うけを狙った作品ばかりだとか、そういった評価がなされています。

確かに中国のインディペンデント・ドキュメンタリーは多く作られています。ただ、中国という全体の環境の中に置いたときに、それは量的にも取るに足らないような存在になっています。私にとってどの作品がどの映画祭に行って、どの作品が良いとか悪いとかっていうこと以上に大事なのは、こうしたインディペンデントの作品を通じて多くの独立した考え方を持つ人たちの思考を促していく。まさにインディペンデント・フィルムというのは、独立した考えの表れなのですから、そこを通して中国の人たちがまた思考を深めることがより重要な作用だと思っています。

現在中国のインディペンデント・フィルムというのはかなり出てきていて、それもいい作品が出てきているのですが、その大きな要因というのは3つあると私は考えています。1つは2000年前後にVCDとかその後DVDの海賊版が非常に多くの種類が出回りまして、こうした海賊版ではありますけれども、そういったものを通して多くの人たちが新しい映像言語についての認識を深めたということが1点。もう1点としてはもちろん技術的な発展ですね。特にインターネットを通して様々な情報にアクセスする。もちろんこのインターネットというのは様々な規制を受けていますが、そういったものを全て規制することはできないわけで、インターネットを通して情報にアクセスしている。そして3つ目は、先ほど皆さんからも指摘があった通り、デジタルビデオの機械が安く手に入るようになって、それを使って撮ることができるようになった。この3点だと思います。それによって多くのいい作品が生まれてきているのが現状です。

ただ、その前にも既にデジタルビデオが普及する以前から8ミリを使ったりしながら、90年代中盤から何人かやはり、このインディペンデント・ドキュメンタリー・フィルムを制作している人たちがいました。趙亮(ザオ・リャン)とか、こちらにいる馮艶(フォン.イェン)監督や李丹(ジ・ダン)監督などが90年代の中ごろから既にインディペンデント・ドキュメンタリーを作っていたわけですね。しかし、それがちゃんと編集してから作品になったというのは最近のことです。私は中国が特殊な環境に置かれていて、他の世界とは比べられないとか、単独で評価すべきだとかそういったことを言いたいわけではありません。もちろん世界には様々な素晴らしい作品、そして素晴らしいプロデューサー、素晴らしい作り手がいるわけです。その中で最終的に重要なのは、自分の独立した作品を作っていくということ。そして実力をここで示していくということだと思います。特に中国にあるこうした背景はやはり無視することができない重要な問題であると思います。


>> 4)創作の現場 監督たちの声
につづく

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